2019.10.22

Chap.19 高気密高断熱、賛否両論。-快適な住まいを考える①

住宅建築と大工の仕事

前回までの3回シリーズで、断熱材の取付にあたって注意するべき点、そして現代の木造断熱工事で不可欠な「通気層」についての話題をお伝えしました。

 

 

 

今回は、木造住宅の快適性を左右する「断熱」について幅広い視点から考えることで、断熱住宅の本質を探りたいと思います。

 

 

吹付硬質ウレタンフォームを断熱材として使用したお住まい。気密断熱に優れ、結露対策もできる断熱材です。(当社現場写真)

 

 

 

聞き手

親方、前回は木造住宅の断熱工事にあたっての通気層の重要性についてお話を伺いました。そもそも、この通気層は昔からあったのでしょうか?

 

 

 

親方

はい。現代のスタンダードである通気層の施工は、約30年程度の歴史しかありません。1970年頃のオイルショックをきっかけに、暖房費を節約するために断熱性能の高い住宅をつくるべきという風潮になっていきました。そして、住宅金融公庫が断熱材の使用を義務付けた頃でもあります。

 

 

 

断熱材そのものを入れること自体、歴史が浅いのですね。

 

 

 

親方

そうなんです。断熱材を入れて温かい家を建てようという雰囲気になったもんだから、全国の住宅会社が一斉に断熱住宅を始めたんですね。その時、社会問題にもなったのが「なみだ茸事件」です。

 

 

 

*なみだ茸事件とは?

壁の中の内部結露対策を怠った高断熱住宅が、たった築3年程度で床が抜けるほどに材木が腐ってしまった実例が発生。その数3万件以上となり、社会問題化した。木材腐朽菌の一種である「なみだ茸」が、壁の中や床下に大量に繁殖したことが原因。

 

1970年頃の第一次オイルショックを機に、暖房費の節約を最重要課題としていた北海道を中心に、多くの住宅が被害にあった。

 

 

 

聞き手

壁体内の結露についての知見がないままに、高断熱住宅を施工した。その結果、たった3年で家がボロボロになってしまった。とても恐ろしい話ですね。

 

 

 

親方

そうなんですね。欧米型の生活スタイルが浸透して、日本でも暖かい住まいを広めようという流れの中で、欧米と日本の気候風土の違いへの配慮が無かったわけです。

 

 

 

 

特にヨーロッパの住宅は、冬の厳しい寒さ対策として断熱性の高い住まいが普及していますね。一方で、日本の木造住宅は、どちらかと言えば夏仕様であった気がします。

 

 

 

親方

そうですね。昔の木造住宅は風通しが良くて庇も深かったし、周りも自然が豊富だったからか涼しかったですね。しかも、天然木や土が湿気を調節していましたので、じめじめした室内環境というのは無かったですね。ただ、冬は寒かったですよ。

 

 

 

 

建材も健康な状態で居られたから耐久性も高かったんでしょうね。

 

 

 

親方

はい。木材そのものは1000年以上も持ちます。理にかなった建て方をすれば、長持ちするんです。

 

 

法隆寺金堂

 

 

法隆寺には、1300年前の建築物が現存していますね。湿度の高い日本でも木造建築物は長持ちすることが証明されていますね。

 

 

 

親方

そうです。そして木造住宅に、冬の温かさを確保するという目的を新たに追加したことで、1970年代以降、我々に課題が与えられたわけですね。

 

 

 

 

過去40年間を振り返ってみると、様々な工法が開発されています。最近では、完全な機械制御のもとで、適温を享受できる住まいも既にありますね。「ゼロエネルギー住宅」と言われているように、光熱費を落として快適に住める住宅を、国と業界が一緒になって推進しています。

 

 

 

親方

はい。技術の進歩はとてもいいことなんですが、人間の生活環境として果たしてそれでいいのかな、という疑問は正直あります。

 

 

 

 

といいますと。

 

 

 

親方

「不自然な環境」、つまり寒さを感じなかったり、暑くて汗をかかなかったりという快適な環境に常にいるというのは、身体の耐性が落ちるのではという不安があります。エアコンの効いたオフィスで働くのと、屋外で身体使って仕事しているのを比べると、何十年も続けばやっぱり身体の丈夫さに違いが出ますよね。

 

 

 

 

確かにそうですね。

 

 

 

親方

やはり季節ごとの違いを身体で感じないことは、動物である人間として異常が生じないのかなという漠然とした疑問があります。

 

 

 

 

高気密高断熱で完全制御されたタワーマンションに住む子供は、塾に通っていたとしても学力が伸びないという話を聞いたことがあります。自然界から受ける刺激が圧倒的に少ないことがその理由であるという研究もありますね。

 

 

 

親方

多分、タワーマンションにいれば、子供も出不精になるんじゃないかな。制御された環境に長くいると、いざ屋外に出た時に、直ぐに身体に異変が生じる、身体の温度調節機能が劣るという事態になるんでしょうね。そして益々、外に出なくなる。

 

 

 

 

機械で完全制御された住環境ではなく、季節を感じながら快適に住む、自然にふれあい様々な体験をする。特に子供の成長を考えると、完全制御の住まいというのは果たしていいのかどうか疑問ですね。

 

 

 

親方

最近、アレルギーやアトピーのお子様が増えているけど、清潔過ぎるのも良くないみたいだし、住宅も不自然にコントロールし過ぎるのも良くないと思いますね。

 

 

 

次回も続きます。快適な室内環境について更に考えていきます。

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