__前回、鉋の調整のお話を聞きましたが、今は大工仕事も機械化されて仕事の中身もだいぶん変わったとお聞きしました。
親方 はい。昔と比べるとやはり、技術屋がやるべきでは無いと思うときがある。プラモデルみたいに組み立てるだけという感覚がある。
__実際は現場で材料を加工もされますし、組み立てだけでは無い気もするのですが、もっと詳しく聞かせて下さい。
※2017年に完成したN様邸には、アイ創建の倉庫に眠っていた古い欄間を取り付けた。
親方 はい。それは例えば、和室の窓枠の見付の寸法を変えるだけで、和室の意匠がガラリと変わる。昔は現場で考えながらベストな見付の寸法を決めていた。でも今は建材メーカーの商品を使うのが主流だから全く違うんです。
※見付とは正面から見える部分やその幅を指します。
__なるほど。現場で大工さんが考えて意匠を決定するのが通常だったんですね。
※ 同じくN様邸和室。床の間には天窓から自然光が左官の壁を舐めるように降り注ぐ。
親方 はい。そして親方がこう仕上げると決めたら、施主も任せていた。そういう時代だったんですね。どちらがいいかは分かりませんが、今のメーカー商品が普及して生産性が上がったのは確かです。
__生産性が上がったということは同時に、大工さんの仕事もガラリと変わったということなんですね。
親方 はい。技術がいらないからコスト最優先の工事がますます一般的になるんだろうね。でもそうなると「親方」という技術全般で采配を振るう役割が必要なくなるから、大工が働く在り方も変わるような気がしますね。
__そうなると、昔のような親方-弟子という関係も無くなり、大工の育成についても不安になります。
親方 そうですね。この先将来も木造住宅は建て続けるだろうし、古家の改修工事も減らないだろう。そんな時に、美意識の高い施主の期待に応えたり、改修現場で臨機応変に対応するべき機会があると思うけど、対応できる大工がその時にどれだけいるのか、やはり不安はあります。
あと、将来を担う若い大工たちが、頭に汗をかいて考え抜きながら仕事をする機会が減っている。私の修行時代は厳しかったけど仕事が楽しかった。今の若者たちがそんな楽しい仕事をする機会が減ったことはかわいそうな気もする。
でも私たちの何よりの使命は今とこれからのお客様のために全力を尽くすことだから、今のやり方で品質の高い仕事を続けることに徹するしかない。目の前の仕事に真摯に取り組むことで、若い大工がそれぞれ学べばいいと思う。
__そうですね。それが今の時代における技術継承なのかもしれませんね。
※アイ創建の家づくりには若い大工さんも携わっています。(秦野市の当社本社にあるスタジオLuminosaのキッズコーナーに使う、天然杉を加工する加藤大工。)
※加藤大工の加工した杉の囲い。手触りも柔らかく、小さなお子様にも安心です。
(次回は、当社創業当時のエピソードを送ります。こちらからジャンプします)