__前回のインタビューでは、見て覚えろの世界で、唯一墨付けだけ師匠から教わったとのお話を伺いました。いろいろと仕事を覚える中で、若いころに一番苦労した仕事は何だったのでしょう?
親方 う-ん。鉋(カンナ)の調整かもしれないな。ノミを使う刻みや、鉋がけも見て覚えるしかなかったんですが、鉋の調整も当然自分でやらないといけない。これは苦労しましたね。仕上げ鉋の場合、鉋屑の厚さは0.03mmととても薄くあるべきなのです。だから刃の位置や鉋の木の部分(鉋台といいます)の下の面の削り作業がとても繊細なんです。
__鉋台の下の面を削るというのはどういうことでしょうか?
※鉋と木材とが接地する面積をできるだけ小さくするためAB間を薄く削る。
親方 図のように鉋台の接地面は中ほどを削りとり、AとBで支えて鉋仕事をするのが通常です。どうしてかと言うと、材木との接地面積をできるだけ小さくすることで操作性が良くなるからなんです。だからAとB以外の面を薄く削るんです。 ただし、AとBのみでは鉋を前後に移動するときに削り面が曲面になる不安が生じます。だから、Cが材木に接するか接しないかのギリギリに調整するんです。
__とても繊細で精密な作業の様な気がしますが。
親方 はい。当時は「吉野紙1枚分の厚さを取れ」と言われていました。
※注記
吉野紙とは奈良県で産する和紙。漆を濾す濾紙として使われている様に、手に持つと手が透けて見える程薄い紙である。
__それは想像以上に細かいですね。今でもそのような調整はなさっているのですか?
親方 いや。今の家づくりではサンダー(電動の研磨工具)が主流だからだいぶんやってないね。
(次回は、職人仕事と今の家づくりについての話題をお伝えします。こちらからジャンプします)