今回も前回に引き続き、軸組図についてのお話です。
聞き手 親方、前回は軸組図を見ながら耐震上の工夫について教えていただきました。その時に軸組図を修正する作業をするとお聞きしましたが、詳しく教えていただけますか。
親方 はいそれでは、実際のお客様宅の図面を見ながら解説しましょう。下の図面ですが、お風呂がありますね。実はこのお風呂は2階にあるんです。赤い線のルートにお風呂の排水を流す排水管が2階の床下を通っています。その後は、赤い線の左端あたりで、1階の室内の壁の中を下に向かって1階の床下へと続いています。
下の図面は1階の平面図ですが、赤い丸に「PS」という表記があります。これはパイプスペースの略で、この中を垂直に排水管が通っているんですね。
この排水管が、2階の床下の狭い空間を通る時、途中で2階の床を支える大きな梁とぶちあたります。下の軸組図の茶色の梁がそれですね。「300」とありますが、これは梁の縦方向の寸法です(300mmです)。この寸法が大きいほど、パイプが通過できる空間が狭くなります。実は、300mmではパイプが通らないのです。だから修正が必要です。
排水管をとおすために、300の梁を180にします。そして、オレンジの梁は300の高さにします。黄緑色の梁がお風呂の荷重を支えていまして、その大きな梁を今度はオレンジの300の梁で支えるようにするんですね。こうすれば、排水管の問題が解決できて、建物の強度も確保できます。
-- もしこれに気が付かなかったらどうなりますか。
親方 はい。排水管を屋外で真下に落とすか、この300mmの梁の下の方を欠くか、どちらかでしょうね。前者は外観がみっともなくなるし、後者は耐震強度が落ちてしまう。
-- 施主の立場で考えると、完成したら、梁を欠いていることなんて分かりませんね。このレベルになると施工会社を信頼するしかありません。
親方 そうですね。ここまでくるとモノづくりの矜持の問題かもしれませんね。
-- 住宅の軸組はこのような精査や変更を経て決定しているんですね。注文住宅は一品生産ですから、このような取り組みが必要なんですね。
親方 あとよくあるのが、キッチンの換気扇のダクトですね。下の図面の様に、ダクトの通過を考えると、梁を270から180に変更することは多いですね。たった9cmのことなんですけどね。もしこれをしないと、違うところに換気扇をつける事になる。そうすると外観が変わってしまってみっともなくなる。( 【補足】 換気扇が付いた壁の外側には排気口がつくので外観に影響がでます)
-- 軸組図を決めるにあたっては外観へも配慮されているんですね。住宅設計の奥深さが垣間見えた気がします。
軸組図を通じた住宅設計の話は次回も続きます。こちらからジャンプします