2019.06.06

Chap.13 大工ならではの建物強度対策-住宅の軸組図を読む①

住宅建築と大工の仕事

 

 

今回からは、木造住宅の軸組図を見ながら、住宅の構造(ここでは住宅の骨格、つまり骨組みを指します。)についてお伝えします。

 

 

 

軸組図の実例

 

 

 

軸組図の実例

 

 

 

軸組図とは、柱と梁で構成される軸組(住宅の骨組みの事です)を図面に表したもので、この図面を基に、柱や梁などの構造材を揃えて現場で組み立てます。(組み立てる作業が上棟です。)

 

 

 

軸組図を含めた構造図を基に、構造材を組み上げる「上棟作業」の様子です。

 

 

 

上棟作業が終わった状態です

 

 

 

お施主様に大工たちの労をねぎらって下さいました。

 

 

 

聞き手  それでは親方。住宅の構造が全て表現されている「軸組図」を見ながら、この軸組図を決定するときの大工の役割についてお聞きしたいと思います。

 

 

 

親方 はい。よろしくお願いします。

 

 

 

-- 先ずお聞きしたいのですが、軸組図を決める作業、つまり建物の構造設計を誰が決めるのですか。

 

 

 

親方  最近の家づくりではどちらの会社もそうですが、一人で決めていないと思います。当社の場合、設計担当者が構造の方針を決めて、その方針に従いプレカット会社が軸組図をつくり、その図面を社内の設計担当者、現場監督、大工の私、これら複数の眼で内容を精査しています。必要あれば修正しています。

 

 

 

-- プレカット会社について教えて下さい。

 

 

 

親方  はい。柱や梁を組み立てるために、端部を加工します。その加工を機械で行うのが今の主流なんですが、その実務を担うのがプレカット会社です。住宅会社が平面図その他の図面をお客様と決めた後に、これら図面に基づいてプレカット会社が軸組図を作るのです。

 

 

 

 

プレカット工場で加工された接合部分

 

 

 

-- プレカット図面を外部で作ることで、アイ創建さんの構造設計がブレることは無いですか?

 

 

 

親方  それはご安心ください。構造設計の方向性を決めるのはあくまでも当社であり、プレカット会社様にはその方針を図面に落とし込んで頂いているだけです。

 

 

 

-- アイ創建さんの構造は、法律の基準以外にも自社で様々な厳しいルールを設けているとお聞きしましたが、そういった自主ルールが反映されているということですね。

 

 

 

親方  その通りです。ただそれが完全に反映されるとは限りませんので、最終決定前に修正をします。継手の位置を変えるような細かい指示もしていますね。

 

 

 

--  「継手の位置」とはどういうことでしょうか?

 

 

 

親方  はい。水平に入る材2本をつなぐ時に加工する接合部のことを継手といいます。例えば下の写真、コンクリートの基礎の真上に置かれている木材は、「土台」といいますが、この土台も長い材1本ではなくどこかでつないでいるんですね。現場搬入のこともあり、大半の木材は4m程度までなので、それ以上の長さが必要なところは継手でつなぐんですね。

 

 

 

この材木を「土台」といいます。当社では耐久性の高い国産ヒノキを採用しています

 

 

 

 

土台が敷かれた状態です。長い土台は途中で継いでいます。

 

 

 

土台の継手

 

 

 

 

 

そして、土台を指示している軸組図にも継手の位置が表現されています。

 

 

土台の軸組図(伏せ図)

 

 

 

赤い丸で囲ったところが継手の位置なんですが、この継手は土台と基礎をつなぐアンカーボルトの近くに来ているかを必ずチェックします。

 

 

 

基礎コンクリートの上についてる細い金具がアンカーボルトです

 

 

 

--それはなぜなんでしょうか?

 

 

 

親方  はい。土台を基礎に固定するのはアンカーボルトという金具なんですが、このアンカーボルトの位置から離れるほど基礎とのつながりが弱くなるから、地震の際に基礎とのズレが大きく生じやすくなる、つまり破断の危険性が高まるんですね。継手そのものが構造上の弱点だから、弱い継手はできるだけアンカーボルトの近くに持ってきたいんですね。

 

 

 

 

--なるほど。耐震等級を決めるにはそのような概念は含まれませんね。表には出ない一見地味なところにも、耐震への配慮をされているのですね。

 

 

 

 

親方  そうですね。今の耐震設計は金物でしっかり留め付けるというのが前提ですが、部分部分を金物で緊結すればそれでいい訳がない。耐震は建物全体で考えるべきなんですね。金物で緊結したことで他で弱点が生じることもある。あと、大工から見れば、金属と木材との相性は悪いのは常識なんです( 【補足】サビや湿気が原因の経年劣化のこと)。だから尚更、金物への過度の依存は禁物だという考えがある。構造材全体でしっかりと地震の力を受け止めるべきだと思いますね。

 

 

 

-- なるほど。寺社仏閣では金物ではなく、材の組み方で耐震強度を保っていますね。

 

 

 

親方  はい。今の時代では居住性や見た目などいろいろ配慮しないといけないから、昔の寺社仏閣の作り方を全面的に真似るわけにはいきませんが、そこで培われた原理原則といいますか、基本的な考え方は大切にするべきだとは思いますね。

 

 

伝統建築物では金物ではなく組み方で構造を保つ(写真は法隆寺五重塔。飛鳥時代の建物が現存。世界最古の木造建築物)

 

 

 

-- その他の工夫も教えていただけますか?

 

 

 

親方  そうですね。継手以外でしたら、通常では不要な登り梁を敢えて当社では入れて、建物を強くしていますね。

 

 

 

 

写真の太い斜めの材が登り梁なんですが、ここには通常構造材はありません(  【補足】 通常は屋根を支える細い材があります。この場合は垂木と言います)。なぜ敢えて登り梁を入れるのかというと、水平の梁と登り梁の2本、合わせて3本の構造材で、写真の赤い三角形をつくり固めたいというのが理由のひとつ目。二つ目の理由は、棟木と桁と登り梁で屋根面を固めたいということです。

 

 

屋根の面(赤い四角)を、棟木と桁と登り梁で四角形をつくり固める。

 

 

 

-- なるほど。登り梁を入れるだけで、2つの面がしっかり固まりそうですね。親方はじめ、社内の皆さんが軸組構造をしっかりご理解されていらっしゃるから、構造面でこのような配慮ができるのですね。

 

 

 

親方  はい。少なくとも教科書には書かれてはいないでしょうね。木造住宅の構造設計は、実はこのような違いの積み重ねで大きく変わるのではないかと思いますね。現場で軸組をいつもみているからだと思いますが、地震の力で建物がどのように動くのかをイメージできると、自ずと建物を強化する策が見えてくるものだと思いますね。住宅の設計をする方には、現場で軸組を観察して、地震による建物の挙動をイメージするトレーニングを重ねて欲しいですね。

 

 

 

今回は軸組図を通じて、大工ならではの視点からの建物強度対策の一例についてお伝えしました。軸組図を見ながらの親方へのインタビューは次回も続きます。こちらからジャンプします

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