丹沢の山並みを背景に上品に佇む渋沢教会。平原末蔵はこの教会の新築工事で、現場監督兼大工棟梁を務めた。
教会の室内の大空間を、特殊な木構造で実現した教会建築。末蔵と建築士とがお互いの技術を持ち寄り完成にこぎつけた。
聞き手
さて親方、本日は渋沢教会の工事についてお聞きしたいと思います。こちらの工事、親方にとっても初めてのことの連続だったとか。
親方
はいそうなんです。ご存知のとおり教会建築は室内に大空間を構成するので、そのため構造の工夫が必要なんですね。ヨーロッパの教会の場合、袖壁で壁を支えるのですが、渋沢教会ではその袖壁が無かったんです。だから骨組みに工夫が必要だった。
聞き手
天井からの荷重を支える時に、外壁には外に広がる力が加わりますね。それを袖壁無しで支えるとは興味深いですね。
親方
渋沢教会の構造は、船底を上下ひっくり返したような形なんですね。そして等間隔でアーチ状のパーツが並ぶんです。
このアーチ状のパーツが柱でもあり屋根を支える材でもあるんですね。
聞き手
とても巨大ですが、形もユニークです。
親方
途中、太くなっているところがあるでしょう。ここに「曲げる力」が最も強く作用するので、断面が大きくなっているんですね。この材の寸法は構造設計家が決めるもので私が決めたわけではありません。
聞き手
ただ、この材をどうやって作って、どうやって現場に搬入するのか。これは現場監督がゼロから考えないといけないと思います。とても興味深いですね。
親方
はい。当然この大きさでは現場に持ち込めません。分割したパーツを現場でつなぐわけですが、強度を確保したつなぎ方も考える必要がありました。あと、現場へ到達するまで細い道があったので、大きく分割することもできなかったんですね。
それに、今回のパーツは国産杉の集成材だったんです。
聞き手
曲げ強度が弱い国産杉の集成材を使うなんてなぜなんでしょうか。
親方
建築士さんが室内を国産の杉でまとめたので、室内に現しとなるこのパーツも国産杉に揃えたかったんです。
聞き手
そもそも国産杉の集成材はあまり見たことが無いですが、どうやって作られたのですか。
親方
はい。今ではそうでもないかもしれませんが、当時はとても珍しく、栃木県にある集成材工場の1か所だけが、それを作るのが可能でした。だから栃木まで通いましたね。
聞き手
骨組み一つ作るのに大変な時間と労力が必要なんですね。
専門技術を駆使して実現した渋沢教会の建築工事。次回も続きます。こちらからジャンプします