2019.06.03

親子田んぼと食べるもん学校―「知育地食」(2)

子供の生きる力を育む[場]作りの達人たち

 

皆様こんにちは。

 

 

今回は、「親子田んぼと食べるもん学校」校長先生の大倉秀千代さんにお話を伺います。(前回の記事はこちら)

 

 

合鴨農法の説明をする大倉さん

 

 

 

「親子田んぼと食べるもん学校」とは?

2004年に岡山県邑久郡長船町(現:岡山県瀬戸内市長船町)で、大倉さんをはじめ町内の農業従事者らによる公民館サークル「長船農学クラブ」が立ち上げた、親子農業体験教室です。

 

 

 

 

 

東京のサラリーマン生活から故郷でのうどん作りに転身。

 

ライター:「大倉さん、それではよろしくお願いいたします。大倉さんは、元々東京でサラリーマン生活をされていましたよね。ご両親のうどん屋さんを継ぐために長船町にUターンされたそうですが、そこからどうして『親子田んぼと食べるもん学校』を開校しようと思われたのですか?」

 

 

 

説明をしてくださっている大倉さん

 

 

 

大倉さん:「私は緑豊かな長船町で生まれ、うどん屋をしている両親と暮らしていましたが、高校卒業後上京しました。大学卒業後、そのまま東京に残り、サラリーマン生活を忙しく送っていましたが、所帯を持ち、子どもが生まれると、(もっと自然豊かなところで暮らしたい)と思うようになっていました。わが子を満員電車に乗せ、保育園に通わせていたことも忍びなく思い、休みには、近くの公園や少し足をのばして山や川に行ってはいたのですが、それもなんだか少し違うような気がして…。

 

 

 

GWに長船に帰省すると、日常の中に自然がいっぱいあり、我が子も自由にイキイキと走り回っていられる。(自然ってこういうところだよな~やっぱり田舎でゆったりとした生活を送りたいな~でも、仕事があるからなかなか戻れないよな~)と思っていたのですが。母親が病気になったため、急遽一家で長船に戻りました。40歳の頃です。」

 

 

 

 

地域農業の在り方を突き詰めて考えた。

 

ライター:「長船に戻り、うどん屋さんを継いだのですね。」

 

 

 

大倉さん:「はい。両親のあとを継いだのですが、うどん作りに慣れてくると、『うどんって日本の国民食なのに、なぜ日本の小麦粉ではうまく作れないのか?』と、不自然に思うようになったのです。しかも、周りを見渡すと、子どもの頃小麦畑だったところがどんどん宅地化され、風景が変わってきている。『ここにあった豊かな自然は、地域農業がきちんとまわっていたから維持できていたのか? せっかく田舎暮らしができたのに…』と、悶々とするようになりました。」

 

 

 

ライター:「残念だなって思われたことが、“動く”きっかけになったのですね。何に取り組まれたのですか?」

 

 

 

大倉さん:「まずは、うどんに適した日本の小麦を探しました。耕作放棄地を、うどんに適した小麦の栽培を通して再生したかったのです。それと並行して、『私たちが、地域の自然を守っている』という自負を持ちながら、農業の多面的価値を学び合う仲間作りをしました。」

 

 

 

ライター:「それが『長船農学クラブ』を結成したきっかけなのですね。」

 

 

 

大倉さん:「はい。声をかけてみると、『なんとかしなきゃって思ってはいたけど、きっかけがなかった』と言ってくれる人が多かったのが嬉しかったですね。クラブでは、みんなで研究しながら、取り組みの報告をしあいました。とても勉強にはなりましたが、何年たっても、いかにして農業で稼げるか…という話ばかりになってしまって…。」

 

 

 

ライター:「大倉さんにとっては、着地点が違ってきたのですね。」

 

 

 

大倉さん:「農業というものの視野を広げていくにはどうしたらいいのか…と考えていると、『子どもたちに、もっとこの地でできたものを食べてもらいたい』と、思っていたことに気がついたのです。キーワードは『地育地食』。少し興行的なにおいがする『地産地消』とはちょっと違い、その意味は『この地で、みんなで育てたモノを、みんなで食べる』。これをキーワードにしたらどうだろう、という思いが深まり、親子で農業体験ができる講座を開校しました。」

 

 

 

子供たちが育てた大根は大人気

 

 

ライター:「なるほど…『地産地消』は結果論であって、地域で育てそれを食べることにより、地域に関心を持ち、地域とのつながりが強まる=それが『地育地食』ということなのですね。子どもたちは心身ともにたくましくなりそうですね。」

 

 

小さい子でもできることはたくさんあります

 

 

 

 

 

2歳の子供だってできることがある。

 

大倉さん:「いぁや~うちの学校に来てくれる子どもたちは、みんな元気!たくましい!しかも、なんでも自発的!時々、『そこまいちゃダメ!』とかありますけど、それも子どもらしい。『子どもらしい』というのは、いいですね~。最近は、あれダメ・これダメが多いけど、農作業は失敗してもやり直せばいいんだから。農作業の道具だって、危ないものが多いですよ。農作業の機械化・効率化から危ないことも増えたでしょうけど、危ないからって遠ざけてきたから、子どもたちの活躍の場が減り、農業から離れてしまったと思います。

 

 

 

 

 

昔の子どもたちは頼りにされてきたからこそ、やりがいがあり、居場所がありましたもの…。ここでは、2歳の子でも、そこら辺の草をとって、鴨(田んぼには合鴨農法のため鴨を放っています)にあげるお仕事ができます。「えらいえらい」って言うと、とっても嬉しそうにしています。」

 

 

 

 

ライター:「『三つ子の魂百まで』体験ができていますね。25歳の友人が、『親子田んぼと食べるもん学校』の一期生なのですが、彼は『“合鴨の進水式”が衝撃的だったなぁ~小さい合鴨たちが田んぼのお世話をしてくれるなんて衝撃的でしたもん』と言っていました。

 

 

 

 

 

私も子どもたちと合鴨放鳥と田植えの授業を受けたことがありますけど、生後4日目の小さな合鴨を抱っこして田んぼに入れるのは、割と至難の業で、子どもたちは最初こわごわでした。中には嫌!ってできない子もいましたし…。でも、田んぼに入れられた合鴨たちは生まれて初めての広い世界を自由に動き回り、なんだかとてもはしゃいでいるように見えて、それを見て子どもたちもだんだんとポジティブになっていましたね。

 

 

 

後で、子どもたちに『かもちゃんのおしごとは?』って聞くと『うごきまわって、むしとかたべて、うんちする!』って答えてくれて、みんなよくご存知で…って、感心したことを今でもよく覚えています。」

 

 

 

 

畑仕事から、子供なりに感じることがある。

 

大倉さん:「その1期生の彼はこの前、授業の手伝いに来てくれて、小さい子どもたちに、『自分たちが植えた野菜が育っていく過程や、活動の中で、これは何?とか、なんでこうなるの?って、不思議に思うことを大切にして欲しい』って話してくれていましたよ。」

 

 

ライター:「まさに“センス・オブ・ワンダー”ですね。大倉さんも嬉しかったでしょう。」

 

 

 

 

大倉さん:「はい。それに、『久々に畑の中で過ごせてスッとした』とも言ってくれましたね。この授業ではないのですが、以前、地元中学校のチャレンジワーク(職業体験)で、うちに不登校だった生徒さんが来たことがあります。一緒に農作業をしたら、その後学校にも行けるようになったとか…。まぁ、土や草などに囲まれていると気持ちがいいわね。そういう風に感じてくれたことが嬉しいです。」

 

 

 

ライター:「自然に身をおいて、生き物に対峙し、汗をかきながら一心不乱に作業をすることで気が整ったのでしょうかね。」

 

 

 

 

大倉さん:「昔は、当たり前のように子どもたちが農作業の手伝いをしていたけれど、今はわざわざそういう機会を与えないとできない時代になってしまっています。参加している子たちは、本当に楽しんで黙々と取り組んでくれていますよ。中には、今まで食べられなかった野菜が食べられるようになった子もいます。親世代も農作業をしたことがない世代ですが、子どもが楽しみにしているから、積極的に協力してくれています。

 

 

 

 

 

 

『食育』って何も難しいものではなく、自分で作ればそれが『食育』になると実感しています。我が子も小学2年の時に長船で暮らすようになり、田畑で遊びながら手伝いもよくしてくれていましたけど、味覚が鋭敏になったなって思いました。子どもの頃から、本当に美味しいものを食べれば食べているほど、食材そのものの違いがわかるんですよね。変なものが入っていたり、まがいものだと身体が受け付けなくなるようです。」

 

 

 

 

 

ライター:「フランスでは味覚教育が進んでいて、学校の授業でいろんな食材を味わうことで五感を磨き、それを表現する方法を学ぶそうですが、大倉さんの授業でも、農作業を通して、感じたことを大切にするようおっしゃっていますよね。」

 

 

 

 

大倉さん:「五感を通して学んだことは一生忘れないものです。自分でがんばって育てた野菜のおいしさはもちろん、畑の中の草をむしったときのにおい、わらやもみがらのにおい、とりたてのトマトのにおい、たき火をしたときのけむりのにおい、大きなトウモロコシをむしるときの感触とワクワク感、いろんな生き物にひょっこり出くわしたときのビックリ感、根の野菜を掘り起こすときのドキドキ感、などなど、たくさん感動してもらいたいものです。」

 

 

 

 

 

ライター:「本当にそう思います!ただ、子どもたちにとっては、難しいこともありますよね。」

 

 

 

大倉さん:「そうですね。田植えのとき、苗が水面に浮いてしまう、大根や蕪の種が思いのほか小さくて、手からこぼれたりくっついたりして、思うようにまけない、畑を耕す鍬が重くて、使いこなすのが難しい…困ったことに出会い、自分で工夫をしたり周りに助けてもらいながら、みんなで作業をすることにより、子どもたちも成長してくれています。」

 

 

 

ライター:「野菜も子どももたくましく育っていますね。」

 

 

 

大倉さん:「小さい種からこんなに大きな野菜が実るんだって、子どもたちは驚いていますが、野菜だって自分だけでは大きくなれません。子どもたちはもちろん、田んぼや畑にいる生き物たちの協力が必要ですし、もちろんお日様、雨、土など自然のめぐみがないと大きくなれません。それを食べることで自分たちも自然の一部であることを実感したり、命のありがたさを感じてもらえたら嬉しいです。」

 

 

 

ライター:「人として大切な経験ですね。また、仲間がいるからこそ喜びも大きいのではないでしょか。」

 

 

 

 

現代に復活した大市で子供が大根を売り歩く!

 

大倉さんは、国宝「一遍上人絵伝」に登場する日本最初の市場である「福岡の市」を再興した中心人物でもあります。毎月第4日曜に長船町福岡で定期市を開催していますが、他府県からの大型バスが来るほど大盛況。4月と11月は大市とし地元住民も出店しています。

 

 

 

 

大倉さん:「毎年11月の備前福岡の大市では、『親子田んぼと食べるもん学校』も出店します。子どもたちは育てた大根を前日に掘ってきれいに洗って売ります。売れるように、子どもたちが工夫をし、試食用に切ったり、浅漬けにしてみたり、試食皿を持ってPRしながら市場小路を練り歩いています。子どもたちにとって手塩にかけて育てた自慢の大根ですので、いい顔をして売り歩いていますね。数年続けて出店していますので、リピーターも増え、あっという間に売り切れてしまいます。」

 

 

育てた大根を試食してもらっている様子

 

 

 

 

 

 

ライター:「実は、私も毎年買っているのですが、この大根はお世辞抜きで本当に瑞々しくて美味しいんですよね。
買うときは、毎回、子どもたちに大げさにこの想いを伝えています!(笑)自分たちが丹精込めて育てたものをお客様が喜んで買ってくれる。そして、おいしいと言ってくれる。これまた、貴重な体験ですね。」

 

 

 

大倉さん:「農業を通していろんな喜びを味わい、農家と消費者が地域内で支え合うことを実感してくれていると思います。」

 

 

 

ライター:「ここは子どもたちの“ふるさと”。農業と食を結びつけることで、『子どもたち自身が“ふるさと”の明るい未来を作っている』と思うと、ワクワクしますね。今日はありがとうございました。」

 

 

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