(前回からの続きです)
聞き手 前回は新築工事第1号の話題でしたが、その後は順調に受注を重ねられたのですか。
親方 いいえ。そんなに甘くはありませんよ。何とか家族が食べていける程度ですよ。でもそれでは悔しいからどうやったら仕事を増やせられるか、あれこれ考えましたね。営業担当はカミさんだったから、僕は技術面でどうしようかを考え続けていた。
__具体的にどんなことを考えていたのですか。
親方 はい。当時トステムのスーパーウォールという高気密高断熱のとても高性能なパネルがありました。でも当時としてはとても高価だったんですね。ごく一部の人にしか手が出ない。そこでもっと多くの人に手に入りやすくするにはどうしたらいいか勉強した。気密や断熱の取り方を勉強して、実際どのような施工方法とすれば一番いいかを研究した。それで実際試してみてうまくいったんですね。
__それは当時は珍しかったんですか。
親方 はい。高気密高断熱が有名になりかけの時だったかな。難しいのは壁の中の結露対策なんですね。単に高気密高断熱の施工は別に何の知恵も必要ないんだけど、壁の中の結露対策を怠ると、水分が滞留してカビが生えて材木が腐ってしまう。断熱材は性能がゼロになる。もう最悪です。建物の寿命が一気に短くなる。だからその難しさを知っている人は足踏みしてしまうんですね。
__そんな話を聞くと、安易に高気密高断熱住宅だから良いと思うのは恐ろしく思います。
親方 まあ今では結露対策をするのは当たり前だけど、念のため気を付けた方がいいでしょうね。
※当時としては珍しかった外断熱の住まい。困難な工事だったため、30年間で唯一、最初から最後まで親方が現場に入った。
__他にはどんな研究をされたのですか。
親方 夏の熱さを何とかしたいなといつも思っていました。夏場室内が熱い最大の理由は、屋根や壁に太陽熱が蓄積されて、それが室内にじわじわ入る輻射熱なんですね。だから、太陽熱が屋根と壁に蓄積しない工夫を研究しました。具体的には空気が逃げる層を作ってそこから熱を逃がす仕組みなんですけどね(外壁通気層といいます)。
__建築士や学校の先生であれば研究してそうですが、大工さんでは珍しいのでは。
親方 そうですね。そんな研究していた大工は周りにはいなかったな。でも通気層の設計を考える事は、現場で考えながら住宅を作る昔ながらの大工仕事に通じるところがあるから、そのような仕組みを考えるのは案外大工の役割かもしれませんね。
__なるほど。手間受けでやるのは指示を受けたとおりに作業をするに終始しますが、元請だったら自由にゼロから考えて仕事ができるという醍醐味がある。独立された理由をそのまま実践されていたわけですね。
(若かりし日の親方のチャレンジングな取り組みはまだまだ続きます。次回は、建築士と二人三脚で完成したキリスト教会堂建築のお話です。こちらからジャンプします)
写真のお宅は、エンジニアの施主様と二人三脚で取り組んだ高性能の温熱制御住宅。OB様インタビューにも登場していただいています。
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